マリアの苦悩──労働者と雇用者の絶え間なき闘争

1992年に「就業服務法」が施行されて以来、外国人労働者を合法的に引き入れることが可能になり18年が経った。しかし、「外国人家政婦」と「外国人介護士」にはいままで合法的な休暇というものが存在しなかった。これは、各家庭内での労働という特殊な労働形態によるものであり、このことが他の外国人労働とは異なる労働基準法の未適応という事態へと繋がった。雇用主への配慮から一年を通して無休という状況もあり得、また、これらの業種はコンビニエンスストアの店員のようにシフトを決め交代するということが難しい。労働委員会の労働統計資料によれば、家政婦と介護士の一日の平均労働時間は十四時間に及ぶという。まさに「人に衝撃を与える数値」である。

あまりにも過酷な労働スケジュールは、外国人家政婦や外国人介護士に多大なストレスを与えるだけでなく、時には重大な問題へと発展してしまうことさえある。たとえば、作家の劉俠(ペンネーム:杏林子)のケースがある。

劉俠は難病関節リウマチを患い、自ら行動することが極めて困難となり長期看護が必要となった。この時、彼女を担当したのはインドネシア籍の看護師ウェーナであった。仕事の性質上、ウェーナは適切な休暇をとることが出来ず、ついには精神異常をきたした。そして、2003年2月7日深夜、劉俠は精神異常をきたしたウェーナに突き飛ばされ怪我を負い、病院へと緊急搬送されたのち、不幸にもこの世を去った。この事件が発生した後、外国人家庭労働者の休暇問題が次第に重要視され始め、現行の法律へと改正され、「家事服務法」により外国人家政婦及び外国人介護士の合法的休暇が規定された。しかし、それにも関わらず、労働委員会の委員長が何代にも渡り交代し、政権すら交代した今日に至ってもなお結果を出せないでいるのが現実である。

一方で、雇用主が外国人家政婦に介護をさせる、または外国人介護士に家事をさせる、さらには、彼らに工場で働かせるなどの状況が実は頻繁に発生している。このことは、外国人家庭労働者が雇用主の命令を断れないという実情に起因している。

同時に、外国人労働者を雇う雇用主が法律により加入を定められている「就業安定基金」は、2010年末時点で累計120億円以上にものぼった。その多くは逃亡した外国人労働者(1)を捕らえるため、またデング熱の予防といった就業とは直接関係のないことがらに使用されていた。本来なら、例えば、対象は各家庭の看護にも拡大され、レスパイト・ケア(2)にもこの基金は利用可能である。国が現地で介護人を雇い入れ在宅看護人として派遣することにより、現地の労働者の雇用拡大につながるのみならず、低所得層が介護士を雇うコストを削減することが出来る。また、もっとも大きな利点は介護士が休暇と保障を得られるという点であろう。

ーカイブ・プロジェクトの成果が記載されているホームページには、ニュースで報道された録画資料が収蔵されている。更に、上述の状況や、CCCの創作した『マリア』に登場する雇用人たちが自分たちの境遇は「動物以下だ」と述べたように、未だ人としての公平な待遇を受けていない台湾の外国人労働者の現状にも言及している。将来、法律改正とその厳正なる執行により、このような雇用主と労働者の絶え間ない戦いに終止符が打たれることを我々は切に願う。


雲林麥寮の六軽工業区にて深夜発生したタイ人労働者と台湾人管理人の集団衝突。後に警察が介入し、事件の責任究明に当たった。
(写真提供 テレビ・ニュース・マスメディア資料館)


酷い雇用主によって設けられた外国人労働者用の牢。壁には外国語がびっしりと書き込まれている。多くの外国人労働者がこの牢で過ごしたという。
(写真提供 テレビ・ニュース・マスメディア資料館)


雇用主による性的暴行を泣きながら訴えるインドネシア人家政婦の姉妹。
(写真提供 テレビ・ニュース・マスメディア資料館)

解説:
1「逃亡した外国人労働者」とは 
台湾において外国人労働者には自ら雇い主を変更する権利も自由も認められていない。したがって、素行の良くない雇用主に雇用されてしまった場合も雇用主を変更することが法律上認められておらず、彼らには非合法ながら逃亡するという選択肢しか残されていないの。

2レスパイト・ケア(長期介護委託サービス)とは
長期介護に応じる為に創設されたサービスであり、介護者の負担を減らし、24時間にわたる日常生活の介護を機関に委託することが可能である。これにより、介護者が一時的に休息をとることができ、介護者の負担を軽減させることで、介護者及び被介護人の家族はその後も介護を続けられるだろう。

参照資料

台湾国際労工連盟

中華民国行政院労工委員会

藍佩嘉(2008),『国を超えたシンデレラ―東南アジア家政婦となって台湾の新しい家庭へ』台北、遠流出版社